3Dレーザースキャナは、i-Constructionが推進されている建設現場や、映像制作におけるCGの作成現場などで利用されている技術です。
フェイズシフト方式は3Dレーザースキャナ技術のひとつで、位相差を利用して空間を読み取ります。
本記事では、フェイズシフト方式の基本的な仕組みやメリット、デメリットを解説します。フェイズシフト方式の概要や活用事例を把握したい方は、ぜひ参考にしてください。
フェイズシフト方式とは
フェイズシフト方式は3Dレーザースキャナに利用されている技術で、建設現場やプラントなどで活用されています。
本章では、フェイズシフト方式の特徴や仕組みについて詳しく解説します。
3Dレーザースキャナ技術のひとつ
3Dレーザースキャナとは、レーザーで物体の情報を読み取り、3Dモデルを作成する技術の総称です。3Dモデルを作成することで、測量や図面作成などを短時間かつ効率的に実行できます。
3Dレーザースキャナに採用されている技術のひとつが「フェイズシフト方式」です。
フェイズシフト方式は、物体との距離を測定する技術で、短時間で精度の高い測定が可能です。測定には「位相差※1」を利用しており、照射したレーザーが反射して返ってくる時間を測定して、物体との距離を測る方法(ToF方式)とは異なります。
※1:2つの波が同じ周期をもちながら、周期の中で位置がずれている状態
他の測定方式との違いを理解して、現場への導入を検討してみてください。
3Dレーザースキャナーについては、以下の記事で詳しく解説しています。
位相差を利用して空間を読み取る方式
フェイズシフト方式は、「発射したレーザーの波形」と「反射したレーザーの波形」の位相差を測定して距離を測る技術です。
レーザーが物体に当たり反射する際、距離によって位相は変化してしまいます。位相差を正確に測定すると、レーザーが物体から戻ってくるまでの正確な時間や距離を計測(計算式:時間×光速=物体までの距離)できます。
フェイズシフト方式のメリット
3Dレーザースキャナに利用されている「フェイズシフト方式」には、以下2つのメリットがあります。
- 短距離測定の精度が高い
- 短時間でデータを取得できる
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
短距離測定の精度が高い
フェイズシフト方式では小さな位相差も検出が可能で、非常に短い距離の変化も感知できます。短距離測定を高精度で実施できるため、許容誤差がミリ単位の場面でも活用可能です。
フェイズシフト方式を利用した3Dレーザースキャナは、スキャン対象との距離が比較的短い建設現場や、高い精度が必要な測量などに向いています。
当社で販売している「FARO Focus Premium」の場合、範囲誤差は±1mm(10〜25m)です。
範囲誤差±1mm(10〜25m)は、10〜25mの測定範囲なら±1mmの精度で測量できることを示します。ミリ単位で施工を行う建設現場においても、十分に活用できる精度といえるでしょう。
短時間でデータを取得できる
フェイズシフト方式は、短時間でデータを取得できる点もメリットです。フェイズシフト方式を採用している「FARO Focus Premium」は、1秒間に最大200万以上の点を測定できます。
短時間で測定かつ工期短縮も可能で、コスト削減にもつながります。また、機器を操作するオペレーターのみで測定できるため、人件費の削減も可能です。
フェイズシフト方式のデメリット
フェイズシフト方式は短時間で高精度の測定が可能である反面、以下の2点のデメリットがあります。
- ノイズデータが多い
- 長距離測定には向いていない
デメリットも理解して、機器の導入を検討してください。
ノイズデータが多い
フェイズシフト方式は照射したレーダーを受光する際、乱反射した光も受け取ってしまうため、ノイズデータが多くなってしまいます。
ノイズデータは専用のソフトウェアで削除可能です。ただ、ノイズが多いほど削除の工数が増えてしまい、業務量の増加につながります。
特に、大規模な構造物や複雑な形状の物体をスキャンした場合は、ノイズ削除の業務負担が大きくなります。
フェイズシフト方式を採用した機器を使用すると、ノイズデータを削除する工程が多くなることをあらかじめ理解しておきましょう。
長距離測定には向いていない
フェイズシフト方式は短距離の高精度測定が可能である一方、長距離の測定では精度が落ちてしまいます。
仮に精度が±1mmの機器でも、測定範囲が広くなるほど精度は落ちていきます。そのため、長距離の測定で高精度のデータを求めている場合、フェイズシフト方式は向いていません。
ただ、長距離測定が不可能であるわけではなく、精度が許容範囲ならば使用可能です。
(FARO Focus Premium:最大350mまでのスキャンが可能)
フェイズシフト方式以外の3Dレーザースキャナの方式
3Dレーザースキャナに採用されている測定方式は、フェイズシフト方式以外に2つあります。
- 三角測量方式
- タイム・オブ・フライト(ToF)方式
それぞれの方式について、詳しく解説します。
三角測量方式
三角測量方式は、スキャナーが発するレーザー光を使って、物体の距離を測定する方法です。
レーザー光が物体に当たり、反射して戻ってきたレーザー光とセンサーの間の角度を測定して、物体までの距離を計算します。三角測量方式は高精度の測定が可能であり、色や背景の影響を受けにくいです。
ただ、三角測量方式は測定範囲が比較的狭いため、大きな物体や広範囲をカバーする測定には不向きです。三角測量方式が適用できない場面では、フェイズシフト方式やToF方式などの測定方式が採用されています。
タイム・オブ・フライト(ToF)方式
タイム・オブ・フライト(以下ToF)方式は、レーザー光が物体に反射して戻ってくるまでの時間を計測して、距離を算出する測定方法です。
ToF方式を利用したセンサー(ToFセンサー)は応用範囲が広く、自動運転やドローンなどの分野でも活用されています。
ToF方式はフェイズシフト方式よりも長距離測定に優れており、ノイズも比較的少ないです。ただし、フェイズシフト方式の方が測定速度も速く、短距離測定にも適しています。
フェイズシフト方式と他の方式の比較
フェイズシフト方式とToF方式の違いを具体的にイメージするために、以下条件でスキャンした際の事例を見ていきましょう。
- 3Dレーザースキャナから計測対象物であるステンレス缶までの距離は約5m
- ステンレス缶の直径は200mm
以下は、フェイズシフト方式とToF方式でスキャンした画像です。
画像上部がフェイズシフト方式で、下部がToF方式でスキャンした画像です。
上面からスキャンした画像を見ると、ToF方式(画像右下)はノイズが少なく、形状がしっかりしています。一方、フェイズシフト方式(画面右上)は乱反射した光も受け取ってしまうため、ノイズが多くなっています。
ただ、「ノイズが多い=精度が低い」というわけではありません。データ処理の工数は増えますが、ノイズはソフトウェアで除去できます。
ノイズを許容できる場合、短距離の精度が高く測定速度が速い「フェイズシフト方式の3Dレーザースキャナ」がおすすめです。
フェイズシフト方式の活用事例
フェイズシフト方式の活用事例を2つ紹介します。
- プラントの現況配管の把握
- 法面の形状計測
それぞれの活用事例を確認して、現場へ導入する際のイメージをしてみましょう。
プラントの現況配管の把握
1つ目は、プラント内の配管を3Dモデル化した事例です。
配管の増設や新しい設備を導入する際、プラント内で複雑に配置されている既設配管を正確に把握するのは労力がかかります。しかし、3Dレーザースキャナーを活用すれば、高精度で素早く3Dスキャンができます。
また、設備の増設にあたってのシミュレーションや、レイアウト変更に伴う計画の策定にも利用されています。
フェイズシフト方式のメリットである「高精度な短距離測定」を活かした事例です。
法面の形状計測
2つ目は、防災の現場でフェイズシフト方式の3Dレーザースキャナが活用された事例です。
この事例では老朽化した法枠を計測後、取得データを基にメンテナンスを実施しました。
2次元の図面だけでは正確な形状や傾斜を把握しにくいですが、3Dスキャンによって詳細な情報を取得できます。また、遠距離からも測定できるため、防災現場の危険箇所でも安全に作業を進められます。
高精度で複雑な形状を把握したい現場においても、フェイズシフト方式の3Dレーザースキャナは活用されているのです。
フェイズシフト方式を採用したFARO社製スキャナーの紹介
フェイズシフト方式を活用したFARO社製スキャナー「FARO Laser Scanner Focus Premium(以下、Focus Premium)」を紹介します。
Focus Premiumは3Dレーザースキャナとして、以下の特徴をもっています。
特徴 | 説明 |
高精度と高速性の両立できる | 建造物などレーザースキャナの使用頻度が高く、比較的短距離において高精度 |
軽量・コンパクトである | コンパクトサイズで重量は4.4kg。移動や作業負担を大きく軽減可能 |
計測モードが豊富である | 品質設定を瞬時に切替可能であるため、計測対象に応じて品質とのバランスをとりながら計測時間の短縮が可能 |
カラー情報の取得能力が高い | 薄暗い環境が多い建築現場や屋内の文化財計測などでも、鮮明なカラー点群データを取得可能 |
クラウドサービスを提供している | 1アカウント20GBのクラウドストレージサービスが無償提供される。Wi-Fiがあれば現場でのデータ取得と同時に、別の場所で編集が可能 |
メーカー保証がついている | 購入後2年間のメーカー保証付き |
Focus Premiumは、高精度かつ高速測定が可能な「フェイズシフト方式」のメリットを最大限に生かした3Dレーザースキャナーです。
建設現場やプラント、映像作成などのさまざまな分野で活用できるため、フェイズシフト方式を現場に導入したい方は、Focus Premiumの導入を検討してみてください。
FARO社製の3Dレーザースキャナに関しては、以下の記事を参考にしてみてください。
フェイズシフト方式についてよくある質問
最後に、フェイズシフト方式に関するよくある質問に回答します。
- 3DレーザースキャナとLiDARの違いはなんですか?
- 3Dレーザースキャナの導入メリットはなんですか?
3DレーザースキャナとLiDARの違いはなんですか?
LiDARは3Dレーザースキャナのひとつです。
3Dレーザースキャナは、レーザーで物体との距離を測定し、形状を把握するための機器を指します。なかでもLiDARは、広範囲で正確な3Dスキャンを実行できる技術です。
特に、LiDARは自動運転の分野で注目されており、常に環境が変化する走行中でも、瞬時に物体を検知できる特徴が評価されています。
そのほか、建設現場での測量や都市開発の人流調査など、幅広い分野でも活用されています。
LiDARについては以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
3Dレーザースキャナの導入メリットはなんですか?
3Dレーザースキャナを導入することで、業務効率化やコスト削減、安全性の向上が期待できます。
例えば、建設業界では測量を3Dレーザースキャナで行うことで、工期の短縮や安全性の向上につながります。また、測量は機器のオペレーターのみで実行できるため、人件費の削減にも期待できるでしょう。
i-Constructionが推進される建設業界において、3Dレーザースキャナの貢献度は今後ますます高くなると予想されています。
高精度の短距離測定ならフェイズシフト方式を採用しよう
フェイズシフト方式は、短距離の測定を高精度かつ高速で実行できる技術です。フェイズシフト方式を採用した3Dレーザースキャナーは、測量や3Dモデルの作成などに利用できるため、業務の効率化やコスト削減に貢献します。
働き方改革が適用される昨今、3Dレーザースキャナによる業務効率化のメリットは大きいといえるでしょう。
今回紹介した「FARO Laser Scanner Focus Premium」は、多数の現場で実績のある機器です。フェイズシフト方式の3Dレーザースキャナーを現場に導入したい方は、ぜひ検討してください。