【2023年最新】LiDARとは?センサーの原理や業界別の活用事例を解説

LiDAR(ライダー)は3Dスキャナー技術のひとつで、自動車業界や建設業界などで活用されています。しかし、具体的にどのような技術なのか、どうやって活用されているのかイメージがつかない方もいるでしょう。

そこで本記事では、LiDARの特徴や測定の仕組みなど、LiDARについて網羅的に解説しています。また、自動車業界を含むさまざまな業界の活用事例も紹介しているため、自社に導入する際の参考にしてみてください。

目次

LiDAR(ライダー)とは?

LiDAR(Light Detection And Ranging)は、レーザー光を照射して、反射光の情報をもとに対象物までの距離と形を計測する技術です。

LiDARの技術は、主に自動車業界や建設業界で用いられています。たとえば、自動車業界では自動運転技術にLiDARが用いられており、完全自動運転に向けて現在も開発が続けられています。

もちろんLiDARは自動運転だけではなく、他業界でも現場の生産性向上に役立つ技術です。導入の検討材料として、仕組みやメリットを理解しておきましょう。

LiDARで空間を読み取れる仕組み

LiDARはレーザーを対象物に向けて発射し、反射光がセンサーに戻ってくる時間を計測して距離を測定する仕組みです。時間と光の速度から算出された、多数の点の距離データを組み合わせることで、3次元の空間を再現できる点が特徴です。

自動車運転においては、先行車との位置関係や急に飛び出す歩行者など、常に変化する環境を正確に検知する必要があります。LiDARは迅速かつ正確に3次元を把握できるため、自動運転には欠かせないシステムなのです。

iPhoneやiPadにもLiDARが搭載されている

iPhoneの一部のモデルでは、カメラにLiDARが搭載されています。iPhoneでLiDARを使えると、手軽に3Dスキャンを利用できます。

iPhoneに標準搭載されている「計測アプリ」では、アプリで物体を読み取るだけで、奥行きまで寸法の測定が可能です。

最近では、iPhoneやiPadのLiDAR機能で、3次元測量ができるアプリも登場しています。国交省の要領に準拠しているアプリを使えば、出来形管理でも活用可能です。

スマートフォンでの3次元測量は、手軽に実行できるメリットがあります。高価なLiDARと比べると性能面で劣りますが、スマートフォンでも業務効率化やコストカットによる生産性アップは十分期待できるでしょう。

LiDARのメリット

LiDARを導入するメリットは、主に2点あります。

・高精度で3Dデータを収集できる
・夜間の測定に強い

LiDARのメリットを確認し、導入を検討してみてください。

高精度で3Dデータを収集できる

LiDARは高精度の3Dデータを収集する能力に優れているため、ミリ単位の精度を要する業務においても活用可能です。

LiDARはレーザーを対象に照射して、戻ってきた反射光を点群データとして保存します。点群データとは、戻ってきた複数のレーザー光を点として保存したデータです。大量に点群データを取得することで、高精度な3Dスキャンが実現します。

たとえば自動運転の分野では、複雑な環境で安全かつ効率的に運行するために、LiDARは詳細な3Dデータを提供します。精度の高い測定が求められる分野において、LiDARは必須と言えるでしょう。

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夜間の測定に強い

LiDAR技術のメリットとして、夜間測定が可能である点が挙げられます。LiDARに用いられる赤外線レーザーは、周囲の光の影響を受けることなく、夜間でも安定した測定ができるためです。

LiDARは外部の光源に影響されず、一日中安定して機能します。24時間365日の運用が不可欠な自動運転や、暗い環境での測量が必要な場面で有効です。

夜間測定に強いメリットは、低光量の条件下での業務を行う現場にとって、業務効率化に大きく寄与するでしょう。

LiDARのデメリット

LiDARは高精度の3Dスキャンや夜間測定ができるメリットがある一方、デメリットもあります。

・雨や霧などによって精度が下がる
・価格が高い

導入にあたっては、機器のデメリットも理解した上で検討する必要があります。本章でデメリットを確認しておきましょう。

雨や霧などによって精度が下がる

LiDARの課題は、雨や霧などの悪天候で精度が低下することです。性能低下の理由は、大気中の水滴が、LiDARが放出するレーザー光を散乱したり吸収したりするためです。

たとえば自動運転において、LiDARセンサーが他の車両や障害物までの距離を正確に検出・測定する能力に、大雨や濃霧が干渉する可能性があります。

一貫して高精度の測定が求められる業務において、悪天候による精度低下は理解しておくべき要素です。

価格が高い

LiDARには高精度レーザーや複雑なデータ処理能力を含むシステムが用いられているため、価格が高い傾向にあります。業務が効率的になるのはわかっていても、導入時のコストがネックになる方もいるでしょう。

しかし、近年では低価格のLiDARも開発されています。性能面では高級モデルに敵わないとしても、業務に求めるレベルの精度をもっていれば十分活用できます。

導入コストと前述したメリットから費用対効果を算出して、導入を検討してみてください。

LiDARとミリ波レーダーとの違い

自動車の障害物検知に用いられるミリ波レーダーとLiDARの違いは、3次元で物体を把握できるかどうかです。

ミリ波レーダーは、高い周波数の電波を使って距離の測定や障害物を検知する技術であり、多くの自動車に搭載されています。

しかし、ミリ波レーダーでは、検知した物体が人なのか車なのかを判別できません。一方、LiDARは3次元で物体を検知できるため、AIと組み合わせることで歩行者や自動車の判別が可能です。

従来の自動車にはミリ波レーダーが用いられていましたが、今後開発が進むにつれて、LiDARが使用される場面が多くなると予想されます。

LiDARの測定方法には種類がある

LiDARに採用されている距離を測定する技術には、以下の2つがあります。

・ToF方式
・FMCW方式

2つの方式の違いを理解しておけば、LiDARのカタログを見る際の参考にできるでしょう。

ToF方式

ToF(Time of Flight)方式は、レーザー光を対象物に向けて発射し、反射光がセンサーに戻ってくるまでの時間から距離を算出する方法です。

ToF方式は構成部品が比較的単純であるため、低コストで製造できます。ただし、反射してきた光が自身が発した光か、外部からの光か判別できない点がデメリットです。

主に自動運転や建設現場の測量など、さまざまな場面で使用されています。

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LiDARとToFセンサーの違いとは?それぞれの原理や特徴を解説 | kumonos 本記事では、LiDARとToFセンサーの違いについて解説します。LiDARとToFセンサーは似ているため、違いがわかりにくいですが、本記事を読んで疑問を解決しましょう。

FMCW方式

FMCW方式は、レーザー光の周波数を変化させながら連続的に照射し、対象物に反射して返ってきた受信波の周波数から距離を測る方法です。

FMCW方式はノイズが少ない点がメリットです。ToF方式は自身が発した光と、外部からの光を区別できませんが、FMCW方式では外部からの干渉をカットできます。

ノイズが少ないメリットがある一方、高価であるため採用数が少ない技術です。自動運転や高い精度が求められる業務において、今後の普及が期待されています。

現場におけるLiDARの活用事例

自動運転でよく話題になるLiDARは、他業界でも活用されています。

1. 土砂の測量
2. iPhoneのLiDAR機能を用いた測量
3. 都市開発における人流調査
4. 景観や樹木のモニタリング

本章では、4つの業界で活用された事例を解説します。

1.土砂の測量

2004年に発生した、新潟県中越地震後の芋川流域における土砂動態を把握するために、LiDARを用いた航空レーザー測量と地上レーザー測量が使用された事例です。2つのレーザー測量は、以下のように使い分けられました。

測量タイプ用途
航空レーザー測量広範囲にわたる土砂移動や地形変化を短時間で捉える。
地上レーザー測量航空レーザー測量では捉えられない詳細な地形変化や小規模な土砂移動を把握する。

この事例では、LiDAR技術を用いて、斜面崩壊による土砂生産量や土砂の移動状況を定量的に分析できました。測量によって、斜面崩壊のリスク評価や砂防計画の策定に役立つデータが得られています。

参考:LiDAR データの差分処理による流域土砂動態把握の試み

2.iPhoneのLiDAR機能を用いた測量

iPhoneやiPadのLiDAR機能を利用した測量は、国土交通省の「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」によって使用が認められています。

国土交通省の九州技術事務所では、iPhoneを使った法面測量(約40m2)の実証実験が行われました。実験では、測量開始からクラウドへのアップロード・共有まで、あわせて10分程度で完了したと報告しています。

iPhoneのLiDAR機能を使えば、高価な機器の導入が必要ありません。そのため、予算が少ない小規模現場でも、3次元測量の実施が可能です。また、現場によってはアプリの活用で工事成績評定点のアップも期待できます。

3.都市開発における人流調査

愛媛県松山市において、人流調査のためにLiDARが用いられた事例です。

従来はアナログ調査が一般的であったため、歩行者量に関して得られるデータには限界がありました。そこでLiDARを活用して、比較的簡単に歩行者量の継続的な取得を可能にしました。

事例では、3D LiDARを活用してリアルタイムで人流を計測し、得られた情報は住民ワークショップ等で活用されています。

参考:まちのにぎわい測定におけるデジタル技術の活用 活用事例と導入の手引き

4.景観や樹木のモニタリング

シンガポールで行われた、環境保全のためにLiDARを用いた事例です。

現場では、景観管理や環境保全のために、多くの人手によって樹木が管理されており、多大な労力や低い測量精度が問題視されていました。

そこで事例では、手持ちのLiDARを用いて樹木を管理しています。手持ちのLiDARでも、ポールのような樹木と似た構造である物体を正しく「樹木ではない」と自動認識できたと報告されています。

効率的かつ低コストで、景観や樹木のモニタリングのためにLiDARを活用できた事例です。

参考:LiDARや画像による農業・林業分野での3Dデータ解析

LiDARと自動運転技術の関係

自動運転でLiDARが使用されている主な理由について、以下の3つの観点から解説します。

・高精度の測定と3Dマッピング技術で自動運転が実現できる
・Solid State式のMEMS方式が主流になっている
・実用化されている事例

自動運転の技術は自動車業界だけでなく他業界にも応用されるため、LiDARの導入を検討している方は把握しておきましょう。

高精度の測定と3Dマッピング技術で自動運転が実現できる

LiDARは高精度の測定と3Dマッピング技術によって、自動運転に必要な機能を有しています。

LiDARは、高い精度で検知したデータを、3次元に即時に変換可能です。さらに、従来のセンサーでは実現できなかった歩行者や先行者、障害物などを判別できる点も、LiDARが自動運転に採用されている理由です。

常に変化する環境を、瞬時に判断する技術が必要な自動運転において、LiDARの技術は必要不可欠となっています。

Solid State式のMEMS方式が主流になっている

自動車に搭載するLiDARは、小型化されたSolid State式が主流です。

従来の車載LiDARは、モーター付きの回転型が主流であり、高い価格とサイズの大きさがデメリットでした。一方、Solid State式は回転機構を持たないため小型化されており、自動車へ簡単に取り付けられます。

回転機構がないSolid State式は、全方位ではなく、レーザーの照射角の範囲でのみセンシング可能です。そのため検知領域が小さく、従来の車載LiDARのように全方位をカバーするために、複数のSolid State式センサーを取り付ける場合が多いです。さらに、Solid State式の中では小型化を行ったMEMS方式が採用されています。

自動運転技術の発展のために、小型化されたLiDARであるSolid State式(MEMS方式)が注目されているのです。

LiDARに関するよくある質問

LiDARに関するよくある質問を3つまとめました。

・2D・3D LiDARとはなんですか?
・LiDARのSLAM技術とはなんですか?
・車載LiDAR用SPAD ToF方式距離センサーとはなんですか?

ここでは、それぞれの質問に対する回答を記載します。

2D・3D LiDARとはなんですか?

2D LiDARと3D LiDARの違いは、以下のとおりです。

LiDARの種類特徴
2D LiDAR1本のレーザーを水平方向に回転させて2次元を把握する。
3D LiDAR垂直方向に複数のレーザーを重ねて水平方向に回転させることで3次元の情報を得る。

取得できる情報が異なるため、測定したい対象によって使い分けましょう。

LiDARのSLAM技術とはなんですか?

SLAM技術とは、自己の位置推定と環境地図作成を同時に行う技術の総称です。SLAM技術を利用することで、ロボットが未知の環境にいても自分の場所がわかるようになります。

クモノスコーポレーションでは、GeoSLAM社製のハンディ型3Dレーザースキャナ『ZEB Horizon』を販売しています。ハンディタイプであるため、洞窟、地下、建物内の空間・暗所でも活用可能です。

三脚が据えつけにくい場所で、広範囲の測量をしたい場合に活躍します。また、車やドローンへの取り付けもでき、SLAM技術を生かした3Dスキャンが可能です。

車載LiDAR用SPAD ToF方式距離センサーとはなんですか?

車載LiDAR用SPAD ToF方式距離センサーとは、車載LiDAR向けのSPAD画素を用いたセンサーです。

SPAD画素とは、弱い光を増幅して捉えられる画素構造で、ToF方式の受光素子のひとつとして用いられています。車載LiDAR用SPAD ToF方式距離センサーによって、自動運転に求められる、車載LiDARの検知・認識性能の向上が期待できます。

LiDARの今後の展望

LiDARの開発は現在でも進んでおり、自動運転における性能の向上や、低コスト化によるさまざまな業界での活用が今後期待されています。

2023年9月26日には、東芝が精度99.9%で物体を追跡するLiDAR技術を開発したと報告しました。物体の検知・認識でミスが許されない自動運転において、画期的な開発と言えるでしょう。

今後はLiDARの進化により、現在レベル3まで実用化されている自動運転技術が、自動運転車(限定領域)のレベル4、完全自動運転のレベル5まで進む可能性があります。LiDARの市場は拡大傾向にあり、自動車センサーの中では小さな規模であるものの、市場規模は拡大していくと予想されています。

参考:世界初、精度99.9%で物体を追跡するLiDAR技術を開発

LiDARを活用して自社の生産性を高めよう

LiDARは日々開発が進められており、公道での完全自動運転が期待されている技術です。また、いずれは建設機械の完全自動運転化も実現する可能性があります。現在でも、LiDARの導入によって測量やモニタリングを効率化している企業・自治体があります。

LiDARは導入にかかるコスト以上に、生産性向上によるプラスの費用対効果を見込める技術です。LiDARの導入を検討している方は、本記事で紹介したメリットとデメリット、活用事例を参考にしてみてください。

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