3Dレーザースキャナの導入を検討している方の中には、精度に対する不安をもっている方がいるかもしれません。精度が基準に満たない場合、施工誤差や事故につながる可能性もあるため、機器の精度は事前に把握しておく必要があります。
そこで本記事では、3Dレーザースキャナの精度について、現場で実際に使用されている機器を例に解説します。本記事を読めば、精度に関する悩みがなくなり、求められる精度の3Dレーザースキャナーを選べるようになるでしょう。また、カタログで精度を見るときの注意点も解説していますので、導入時の参考にしてみてください。
3Dレーザースキャナとは?
3Dレーザースキャナは、物体や環境を高精度の3次元データとして捉える技術です。
本章では、まずは3Dレーザースキャナの仕組みと可能な業務について解説します。
3Dレーザースキャナの仕組み
3Dレーザースキャナは、レーザー光を対象物に照射して、反射光が戻ってくるまでの時間を測定し、距離と角度情報から3次元の情報を取得する機器です。レーザー照射のプロセスは高速で行われ、数万〜数十万ものレーザーから情報の取得が可能です。
データは点として取得され、点の集合体は「点群データ」と呼ばれます。一つひとつの点は、距離や角度の情報をもっています。したがって、対象物から大量の点群データを取得することで、物体の正確な形状が3Dで再現できるのです。
3Dレーザースキャナで可能な業務
3Dレーザースキャナは、多岐にわたる用途で活用されています。
たとえば、建築や土木においては、既存建造物の3Dモデリングや構造物の検査、土地の測量などに使われている場合が多いです。製造業では、製品の品質管理やリバースエンジニアリング、製品の寸法検査などに利用されています。また、歴史的建造物を3Dデータとして記録して、維持管理に役立てている事例もあります。3Dレーザースキャナは高精度な性能や効率性の良さから、多くの業界で重要なツールになっているのです。
3Dレーザースキャナの精度はどのくらい?解像度との違いも解説
3Dレーザースキャナを導入する際、現場に使えるレベルの精度なのか事前に確認しておく必要があります。
本章では、実用化されている機器を例として、3Dレーザースキャナーの精度について解説します。
FARO Focus Premiumの場合は±1mm
クモノスコーポレーションが販売しているFARO Focus Premiumという機器を例にすると、範囲誤差は±1mm(10〜25m)です。この数値は、10〜25mの測定範囲であれば、±1mmの精度で測量が可能であることを示します。
たとえば建設業では、施工する構造物によって許容誤差は異なりますが、±1mmの誤差であれば十分な精度でしょう。ただし、距離が遠いほど誤差は大きくなるため、使用には注意が必要です。
精度と解像度の違い
3Dレーザースキャナのカタログには「精度」と「解像度」が書かれている場合があります。似た単語ですが、異なる概念だと理解しておきましょう。
精度とは、測定したデータが実物とどのくらい誤差があるのかを示す数値です。一方、解像度は取得する点群データの点同士の距離、つまり一定の範囲内でどれだけ多くの点を捉えられるかを表した数値です。
解像度が高ければより細かいディテールを捉えられます。ただ、必ずしも高い精度を意味するわけではありません。したがって、スキャナーを選定する際には、用途に応じて精度と解像度を考慮することが重要です。
3Dレーザースキャナの精度の数値を見る際の注意点
3Dレーザースキャナには、スキャンできない物体があったり、データ処理が必要だったりと、把握しておくべき注意点があります。主な注意点は以下の3つです。
- スペック値と実際の精度が異なる場合がある
- スキャンできない物体がある
- データの合成時に誤差が大きくなる
以上3つの注意点を事前に理解しておき、現場に適した3Dレーザースキャナを選びましょう。
スペック値と実際の精度が異なる場合がある
3Dレーザースキャナのスペック値に記載されている精度は、理想的な環境下での測定結果をもとにしている場合があります。
しかし、実際の使用環境は常に理想的ではなく、さまざまな外部要因が精度に影響を与えます。とくに外部の光源・気温・湿度・対象物の材質や色などは、測定結果に影響を与える要因です。
また、センサーの品質やソフトウェアの性能などによって、同じ精度の機器でも実際の測定精度が異なる場合もあります。
スペック上と実際の使用時の精度には差が生じたり、同じ精度の数値でもメーカーや商品によって違いがある点を理解しておきましょう。
スキャンできない物体がある
3Dレーザースキャナは、すべての物体を高精度でスキャンできるわけではありません。たとえば、透明の物体や反射性の高い物体、極端に暗い色の物体は、レーザー光が反射しにくく正確なスキャンが困難です。
また、スキャナの精度によっては複雑な形状や狭い隙間がある物体も、正確に捉えられない可能性があります。
3Dレーザースキャナの制限を理解し、スキャンしたい対象が適切かどうか確認しておきましょう。
データの合成時に誤差が大きくなる
3Dレーザースキャナのスキャンデータを合成する回数が増えるほど、誤差が大きくなるため注意しましょう。
3Dモデルを作成するためには、1回だけでなく複数回のスキャンを行って、それぞれのデータを合成させる必要があります。精密なモデルであるほど合成回数が増えるため、合成のたびに発生する小さな誤差が積み重なり、誤差が大きくなるのです。
また、使用するソフトウェアの品質や操作の正確さも、最終的なデータの品質に影響します。
スキャンデータの合成には、データを処理するソフトウェアを扱うためのスキルが必要です。クモノスコーポレーションでは、3Dレーザースキャナを購入されたお客様に対して「導入時技術トレーニング」(2日前後)を実施していますので、ご利用を検討してみてください。
3Dレーザースキャナの精度は何によって決まる?
3Dレーザースキャナの精度を決める要素は、主に以下の項目が挙げられます。
要素 | 説明 |
レーザー光の径 | 細いレーザー光はディテールを捉えやすい。 |
波長 | 測定対象の表面特性に応じた波長を選択することで、精度が向上する。 |
距離測定方式 | ToF方式・位相シフト法・三角測量法などによって精度が異なる。 |
スキャン速度 | スキャン速度が速いと、測定時間が短縮される一方、解像度が低下する可能性がある。 |
フィールドオブビュー(FOV) | FOVが広いと一度のスキャンで広範囲を測定できるが、解像度が低下することがある。 |
センサーの品質 | 高品質なセンサーは安定したデータを提供しやすい。 |
ソフトウェアの性能 | データ処理や解析の効率性がスキャンの精度に影響する。 |
さまざまな要素が組み合わさって、3Dレーザースキャナの精度が決定します。用途に応じて適切なスキャナを選びましょう。
適切な精度の3Dレーザースキャナの選び方
3Dレーザースキャナの精度は、高ければ高いほどいいわけではありません。3Dレーザースキャナを選定する際には、以下の3つのポイントを考慮しましょう。
- 使用用途を決めておく
- スキャン対象の形とサイズを確認する
- センサーの品質やソフトウェアの性能などを確認する
精度が高ければ価格も高くなる傾向があります。現場に必要な精度を考慮して、費用対効果を高められる選択をしましょう。
使用用途を決めておく
3Dレーザースキャナを選ぶ際には、使用用途を明確にすることが重要です。
たとえば、建築現場での測量や製品の品質検査、文化財のデジタル化など、用途によって必要とされる精度や機能が異なります。
用途に応じて必要な精度や解像度、スキャン範囲などを考慮することで、最適なスキャナを選定できます。
スキャン対象の形とサイズを確認する
スキャン対象の形状とサイズも重要な選定基準です。
たとえば測定対象が大きな構造物の場合、広範囲をカバーできるスキャナが必要です。また、複雑な形状のディテールを捉えたい場合は、高解像度のスキャナーを選ぶ必要があります。
対象によって3Dレーザースキャナに求められる精度は変わるため、サイズや形によって機器を選びましょう。
センサーの品質やソフトウェアの性能などを確認する
スペック値が同じでも、低価格な機種と高価格な機種で3Dスキャンの精度が異なります。
センサー品質は捉えられるデータの精度に影響し、高品質なセンサーはより正確なデータを提供します。また、スキャナーに付随するソフトウェアの性能も重要です。データの処理能力やシステムの使いやすさ、データ管理機能などが、最終的なスキャン結果の品質と利便性に大きく寄与します。
3Dレーザースキャナの精度は、センサーの品質やソフトウェアの性能、計測範囲などによって異なるため、現場に求められる精度を把握しておきましょう。
3Dレーザースキャナのメリット
3Dレーザースキャナが現場にもたらすメリットは、以下の3点です。
- 広範囲の測定ができる
- 安全に測定ができる
- 業務効率化・コスト削減が期待できる
現場に3Dレーザースキャナを導入する際の参考にしてみてください。
1.広範囲の測定ができる
3Dレーザースキャナのメリットのひとつは、広範囲にわたる測定が可能である点です。
3Dレーザースキャナーを使用することで、大規模な建造物や広い敷地なども迅速かつ正確にスキャンできます。また、スキャナーは遠隔操作できるタイプもあるため、手の届かない高さや危険な場所の測定も可能です。
一度の測定で広範囲のデータを取得できるため、時間をかけて測定を行う必要がなくなり、効率的に業務を進められます。
2.安全に測定ができる
3Dレーザースキャナを使用することで、測定作業の安全性が向上します。
建築現場や危険な環境での作業時、従来の手法では人が測点まで行く必要があり、事故のリスクが伴っていました。しかし、遠隔操作が可能である3Dレーザースキャナーなら、人を危険な場所に送り込む必要がなくなります。
安全性が求められる現場において、作業中の事故リスクを減少できるのは大きなメリットです。
3.業務効率化・コスト削減が期待できる
機器を操作する作業員がいればデータを取得できるため、従来の測定よりも業務の効率化とコスト削減が期待できます。
3Dレーザースキャナは、広範囲からデータの取得が可能です。また、測定に必要な人員も機器のオペレーターだけで済むため、全体的な作業時間とコストの削減に寄与します。
働き方改革が推進されている近年では、3Dレーザースキャナがもたらす業務効率化やコスト削減の効果は大きなメリットです。
3Dレーザースキャナのデメリット
3Dレーザースキャナはメリットが多い一方、デメリットもあります。
- データは処理しないと扱えない
- 導入コストがかかる
デメリットも理解して、現場に導入する必要があるかどうか判断しましょう。
1.データは処理しないと扱えない
3Dレーザースキャナによって収集されるデータは、そのままでは直接利用できないため処理が必要です。
スキャナが捉えた生データは、大量の「点群データ」として存在します。データを実務で扱えるようにするためには、人や車、レーザーの乱反射による誤った点群などのノイズの除去や、CAD化するためのデータ変換が必要です。
ノイズ除去やデータ形式の変換は、専門的な知識とソフトが必要です。3Dスキャンデータの処理と管理は、時間とリソースを要する作業だと理解しておきましょう。
2.導入コストがかかる
3Dレーザースキャナの導入には初期投資がかかります。
高品質のスキャナほど、精度の高いセンサーや高度なシステムを搭載しているため、コストが高くなりがちです。また、高度なデータ処理を行うためには、専門のオペレーターや追加のソフトウェアが必要になる場合もあります。
3Dレーザースキャナの導入を検討する際には、長期的な費用対効果を考慮することが重要です。
3Dレーザースキャナの活用事例
本章では、3Dレーザースキャナが実際に現場で活用された事例を紹介します。
活用事例を確認して、現場に導入する際のイメージを明確にしましょう。
構造物の3Dモデル化
1つ目は、作業スペースが限られた人口密集地で、構造物を3Dでモデリングした事例です。使用した機器はFARO社製の『Faro Focus 3D X330』です。
事例では、3Dモデリングによって、従来の方法に比べて測定に必要な労力が大幅に削減されたと報告されています。また、3Dデータはクレーンの作業計画や作業手順書にも活用され、関係者間の情報共有を効率化させ、工事の安全性と品質の確保に大きく寄与しました。
今回使用されたFaro Focus 3D X330は、直射日光の下でも最大330メートル離れた対象物をスキャンできます。さらに、GPS受信機の搭載によって、正確な位置情報を機器が把握できたり、複数のスキャンデータを正確に整合できたりする点も特徴です。そのため、土地や建物などで、広範囲かつ精度の高い測量が必要な場合に適しています。
参考:3Dスキャナを活用した現場計測【Faro Focus3D X330】
建築現場の測量
次の事例は、Amnex社という建築会社が、現場の測量業務で3Dレーザースキャナの『FARO Laser Scanner』を使用して、大幅に業務効率化を実現したケースです。
FARO Laser Scannerの持ち運びやすさや操作のしやすさ、高精度の測定能力により、Amnexのチームは短時間で広範囲のデータを取得できました。また3Dレーザースキャナの使用により、測量の所要時間を最大50%短縮でき、±2mmの測定精度を確保できたと報告されています。
Amnex社がFARO Laser Scannerを選択した理由は、最長330mの計測範囲をカバーできる能力と、データ品質の高さでした。ミリ単位の精度が求められる測量においては、FARO Laser Scannerのような高精度のスキャナーを検討してみてください。
参考:導入事例 | Amnex Infotechnologies | 分野:建築BIM
3Dレーザースキャナの精度を把握して現場で活用しよう
3Dレーザースキャナの精度は、 例えばクモノスコーポレーションが販売している『FARO Focus Premium』という機器では範囲誤差±1mmと、非常に小さい数値です。ミリ単位の精度が求められる業務でも、十分活用できる精度と言えるでしょう。
精度の高い機器は高品質なデータを提供できますが、価格が高い傾向にあります。現場に機器を導入する際は、業務に求められる精度で測定できる、費用対効果の高いスペックの機器を選びましょう。
また、黒い物体や光沢のある物体などは、スキャンに適しません。事前に対象物の形状や色が、3Dレーザースキャナに適用できるか把握しておくことも大切です。
3Dレーザースキャナを現場に導入したいと考えている方は、本記事を参考に、現場に適した精度の機器を選んでみてください。